しゃくれの見た目を改善したいという思いから、自力でのトレーニングやマッサージに期待を寄せる方は少なくありません。しかし、これらの方法には限界があり、場合によっては危険性も伴うことを理解しておく必要があります。特に、骨格的な問題が主な原因であるしゃくれに対して、自力でのトレーニングが効果を発揮することはほとんどないと言ってよいでしょう。自力トレーニングの多くは、顔の筋肉(表情筋や咀嚼筋)に働きかけるものです。例えば、舌を上顎につけるトレーニング、口輪筋を鍛える運動、顎周りの筋肉をマッサージするなどがあります。これらのトレーニングは、筋肉の緊張を和らげたり、血行を促進したり、あるいは舌の正しい位置を意識づけたりする効果が期待できるかもしれません。その結果、顔のむくみが取れてフェイスラインが一時的にスッキリ見えたり、口呼吸が改善されたりする可能性はあります。しかし、これらはしゃくれの根本原因である顎の骨の大きさや位置関係を変えるものではありません。下顎骨が上顎骨に対して構造的に前に出ている場合、筋肉を鍛えたからといって骨が後退することはないのです。むしろ、間違った方法や過度なトレーニングは、様々なリスクを引き起こす可能性があります。例えば、顎に強い力を加え続けるようなマッサージや、無理に下顎を後退させようとするような動きは、顎関節に過剰な負担をかけ、顎関節症を発症させたり、既存の症状を悪化させたりする危険性があります。顎関節症になると、口を開けるときに痛んだり、音が鳴ったり、口が開きにくくなったりといった症状が現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。また、特定の筋肉だけを不自然に鍛えようとすると、顔の筋肉バランスが崩れ、かえって不自然な表情になったり、新たな問題(例えば、頭痛や肩こりなど)を引き起こしたりすることも考えられます。特に注意が必要なのは、インターネットやSNSなどで見かける「効果があった」という個人の体験談です。これらは、個人の感想であり、科学的な根拠に乏しい場合が多いです。また、その人が本当に骨格性のしゃくれだったのか、あるいはごく軽度の機能的な問題だったのか、トレーニング以外の要因(例えば、体重の減少など)が影響していたのかなど、背景が不明確な場合も少なくありません。安易にこれらの情報を鵜呑みにして自己流のトレーニングを始めるのは非常に危険です。