「しゃくれ」とは、一般的に下顎が上顎よりも前方に突出している状態を指し、医学的には下顎前突(かがくぜんとつ)と呼ばれることもあります。このしゃくれの見た目を気にされ、なんとか自力で治せないかと考える方も少なくありません。インターネット上には、様々な自力矯正法やトレーニング、マッサージなどが紹介されていますが、これらの方法で本当にしゃくれが治るのでしょうか。結論から申し上げると、骨格的な問題が原因であるしゃくれを、自力で根本的に治すことは極めて困難であり、多くの場合、誤解に基づいていると言わざるを得ません。しゃくれの原因は、大きく分けて二つあります。一つは、下顎の骨そのものが過剰に成長している、あるいは上顎の成長が不十分であるといった「骨格性」の問題です。もう一つは、歯の生え方や噛み合わせの問題、あるいは舌の癖や口呼吸といった習慣によって、機能的に下顎が前方に誘導されている「歯性・機能性」の問題です。このうち、骨格性のしゃくれは、成長期を過ぎてしまうと骨の形を変えることは自力では不可能です。顎の骨の大きさや位置関係は、遺伝的な要因や成長期のホルモンバランスなどによって決定される部分が大きく、マッサージやトレーニングで骨そのものを縮めたり、後退させたりすることはできません。一方、歯性・機能性のしゃくれの場合、特に成長期のお子さんであれば、舌の正しい位置を意識するトレーニング(MFT:口腔筋機能療法)や、口呼吸を改善する訓練などによって、症状の進行を抑制したり、軽度であれば改善が見られたりする可能性はゼロではありません。しかし、これも専門家の指導のもとで行うべきであり、自己流で行うと効果がないばかりか、かえって顎関節に負担をかけたり、他の問題を引き起こしたりするリスクも伴います。大人の場合、長年の習慣によって定着した歯並びや噛み合わせを自力で変えるのは非常に難しく、効果は限定的と言わざるを得ません。インターネット上で見かける「しゃくれを治すエクササイズ」や「小顔矯正マッサージ」などは、主に顔の筋肉の緊張を和らげたり、むくみを取ったりすることで、一時的にフェイスラインがスッキリ見える効果を狙ったものが多いようです。これらは骨格そのものを変えるものではなく、しゃくれの根本的な改善には繋がりません。
しゃくれを自力で治すのは可能?現実と誤解