顎関節症の治療法としてよく用いられるマウスピース(スプリント)。「マウスピースを着ければ、顎関節症は本当に治るの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、マウスピースは顎関節症の症状を緩和し、顎関節や筋肉への負担を軽減する上で非常に有効な治療法の一つですが、必ずしも「マウスピースだけで完全に治る」とは限りません。顎関節症の原因は多岐にわたり、単一ではありません。歯ぎしりや食いしばり、ストレス、噛み合わせの不調和、生活習慣、外傷などが複雑に絡み合って発症することが多いのです。マウスピース治療は、これらの原因の中でも特に「歯ぎしり・食いしばりによる顎関節や筋肉への過度な負荷」を軽減することに大きな効果を発揮します。夜間にマウスピースを装着することで、無意識に行われる強い噛みしめから顎関節と筋肉を守り、炎症や痛みを和らげます。また、噛み合わせを安定させ、筋肉の緊張を緩和する効果も期待できます。これにより、多くの患者さんで症状の改善が見られます。しかし、例えばストレスが大きな原因となっている場合、マウスピースで物理的な負担を軽減しても、ストレスそのものが解消されなければ、症状が再発したり、完全に治癒しなかったりすることがあります。また、噛み合わせの根本的な問題が大きい場合や、顎関節の構造自体に異常がある場合には、マウスピース治療だけでは限界があり、矯正治療や外科的治療が必要になることもあります。顎関節症の治療の実際としては、まず歯科医師による詳細な診査・診断が行われます。問診、触診、顎の動きの検査、レントゲン撮影、場合によってはMRI検査などを行い、顎関節症のタイプや原因、重症度を特定します。その上で、個々の患者さんに合った治療計画が立てられます。マウスピース治療はその一環として選択されることが多く、他の治療法(薬物療法、理学療法、セルフケア指導、ストレスマネジメントなど)と組み合わせて行われるのが一般的です。マウスピースの種類も、症状や目的に応じて様々なものがあります(スタビライゼーションスプリント、リポジショニングスプリントなど)。歯科医師は、患者さんの状態に最適なマウスピースを選択し、精密に調整します。そして、定期的な通院でマウスピースの適合状態や症状の変化を確認し、必要に応じて調整を繰り返しながら治療を進めていきます。