しゃくれ(下顎前突)と一口に言っても、その原因は様々です。そして、原因によって、自力での対処法がわずかながらでも効果を示す可能性があるのか、それとも全く無意味なのかが大きく異なります。しかし、大前提として、骨格的な問題を伴うしゃくれを自力で根本的に治すことは不可能であることを理解しておく必要があります。まず、しゃくれの最大の原因の一つが「骨格性」のものです。これは、遺伝的な要因や成長期のホルモンの影響などにより、下顎の骨が過剰に成長したり、上顎の骨の成長が不十分だったりすることで生じます。この場合、顎の骨の大きさや形、位置関係そのものが問題であるため、骨の成長が完了した成人では、自力でのトレーニングやマッサージで骨格を変えることはできません。無理に力を加えても骨は動かず、かえって顎関節を痛めるリスクがあります。成長期のお子さんであっても、骨格の成長パターンを自力でコントロールすることは極めて困難です。このタイプのしゃくれに対しては、専門的な歯列矯正治療や、場合によっては外科的矯正手術が必要となります。次に、「歯性」のしゃくれがあります。これは、骨格には大きな問題がないものの、上の前歯が内側に傾いていたり、下の前歯が外側に傾いていたりすることで、相対的に下顎が前に出ているように見える状態です。この場合も、歯の傾きや位置を自力で変えることはできません。歯は歯槽骨という骨の中にしっかりと植わっており、適切な力を適切な方向に継続的に加えることで初めて移動します。これは歯列矯正治療の領域であり、自己流で歯を押したり引いたりするのは非常に危険です。そして、「機能性」のしゃくれというものもあります。これは、噛み合わせのどこかで早期に歯が接触する部分があり、それを避けるために無意識に下顎を前方にずらして噛んでいる状態や、舌を前に出す癖(舌突出癖)、口呼吸、指しゃぶりといった悪習癖が原因で、下顎が前方に誘導されている状態を指します。この機能性の要因については、特に成長期のお子さんの場合、原因となっている癖を改善するトレーニング(MFT:口腔筋機能療法など)を行うことで、症状の進行を抑制したり、軽度であれば改善が見られたりする可能性があります。例えば、舌の正しい位置(スポット)を意識する、鼻呼吸を促すといったトレーニングです。