奥歯の奥が痛み、さらに顎の下や首のリンパ節まで腫れて痛む場合、その原因として最も頻繁に疑われるのが「親知らず(智歯)」の問題です。親知らずは、私たちの口腔内で最も遅く、一番奥に生えてくる歯(通常は10代後半から20代前半)であり、その位置や生え方から様々なトラブルを引き起こしやすいことで知られています。なぜ親知らずが奥歯の奥の痛みやリンパ節の腫れの原因となるのでしょうか。その主な理由は「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」という炎症です。親知らずは、生えてくるための十分なスペースがない場合、まっすぐに生えずに斜めになったり、横向きになったり、あるいは歯茎の中に一部または全部が埋まったまま(埋伏歯)になったりすることがよくあります。このような不完全な生え方をした親知らずの周りには、歯ブラシが届きにくく、食べ物のカスやプラーク(細菌の塊)が非常にたまりやすい環境が生まれます。この汚れが温床となって細菌が繁殖し、親知らずの周りの歯茎に炎症を引き起こすのが智歯周囲炎です。智歯周囲炎の症状としては、まず親知らず周辺の歯茎の赤み、腫れ、痛みが生じます。炎症が進行すると、ズキズキとした強い痛みに変わり、時には膿が出ることもあります。そして、この炎症がさらに周囲の組織に波及すると、口が開きにくくなったり(開口障害)、食べ物や唾液を飲み込む際に痛みを感じたり(嚥下痛)、発熱したりといった症状が現れます。さらに、炎症が顎の下や首のリンパ節に及ぶと、リンパ節が免疫反応として腫れ上がり、触ると痛みを感じるようになります。これは、リンパ節が体内に侵入した細菌と戦っている証拠でもあります。特に、疲労がたまっていたり、風邪などで体全体の免疫力が低下していたりすると、智歯周囲炎は悪化しやすく、それに伴ってリンパ節の腫れも顕著になることがあります。したがって、奥歯の奥に痛みがあり、同時に顎の下や首のリンパ節が腫れて痛む場合は、まず親知らずが原因である可能性を考えるべきです。自己判断で市販薬に頼ったり、放置したりせず、速やかに歯科医院(特に口腔外科を標榜しているところ)を受診し、レントゲン検査などで正確な診断を受け、適切な治療(洗浄・消毒、抗生物質の投与、炎症が治まった後の抜歯など)を受けることが重要です。