「顎がしゃくれている」という状態は、単に見た目の特徴だけでなく、多くの場合、「噛み合わせ」にも大きな影響を及ぼしています。顎の骨格的な位置関係が正常でないため、上下の歯が正しく噛み合わない「不正咬合(ふせいこうごう)」を引き起こしやすいのです。顎しゃくれ(下顎前突症)のケースで最もよく見られる噛み合わせの問題は、「反対咬合(はんたいこうごう)」、いわゆる「受け口」です。正常な噛み合わせでは、上の前歯が下の前歯に少し被さるような形になりますが、反対咬合では、逆に下の前歯が上の前歯よりも前に出て、上の前歯に被さるか、あるいは全く噛み合わない状態になります。この反対咬合は、様々な機能的な問題を引き起こす可能性があります。まず、「咀嚼(そしゃく)機能の低下」です。前歯で食べ物をうまく噛み切ることができず、奥歯に過度な負担がかかりやすくなります。しっかりと噛み砕けないまま食べ物を飲み込んでしまうと、消化不良の原因にもなりかねません。また、特定の歯にばかり力が集中することで、その歯が早期に摩耗したり、歯周組織にダメージを与えたりするリスクも高まります。次に、「発音への影響」です。特にサ行、タ行、ラ行などの特定の音は、舌と前歯の位置関係が重要になります。反対咬合の場合、舌の動きが制限されたり、息が漏れやすくなったりして、発音が不明瞭になることがあります。さらに、「顎関節への負担」も懸念されます。正常でない噛み合わせで無理に顎を動かしていると、顎関節に過度なストレスがかかり、顎関節症(顎が痛い、口が開きにくい、カクカク音が鳴るなど)を引き起こす原因となることがあります。また、顎しゃくれでは、前歯だけでなく奥歯の噛み合わせもズレていることが多く、例えば「交叉咬合(こうさこうごう)」といって、上下の奥歯が横方向にズレて噛み合っている状態も見られます。これは、下顎が左右どちらかに偏位していることを示唆している場合もあります。これらの噛み合わせの問題は、放置しておくと、虫歯や歯周病のリスクを高めたり、顔の歪みや肩こり、頭痛といった全身の不調に繋がったりすることもあります。顎しゃくれと噛み合わせの問題は密接に関連しています。もし、ご自身の顎の形態だけでなく、噛み合わせにも気になる点があれば、歯科医師や矯正歯科医に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です。