「横になると歯が痛い」という症状は、多くの場合、歯の神経(歯髄)に何らかの問題が起きているサインである可能性が高いです。歯科医師は、この症状をどのように捉え、どのような原因を考えるのでしょうか。まず、歯科医師が最も疑うのは「歯髄炎(しずいえん)」です。歯髄炎は、虫歯が進行して歯髄に細菌感染が及んだり、外傷によって歯髄が損傷したりすることで起こる歯髄の炎症です。歯髄は硬い歯の組織に囲まれているため、炎症によって腫れると内部の圧力が急上昇し、神経を強く圧迫します。横になると、頭部への血流が増加するため、歯髄内の血管がさらに拡張し、この圧力が一層高まります。その結果、神経がより強く刺激され、ズキズキとした激しい痛みが生じるのです。この痛みは、特に夜間に増強する傾向があるため、「夜間痛」とも呼ばれます。次に考えられるのは、「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」です。これは、歯髄炎が進行して歯髄が死んでしまったり(歯髄壊死)、過去に行った根管治療が不十分だったりした場合に、歯の根の先端(根尖)の周囲組織に細菌感染が広がり、炎症や膿の袋ができる病気です。この場合も、横になることで根尖部への血流や圧力が変化し、痛みが誘発されたり増強されたりすることがあります。噛んだ時の痛みや、歯茎の腫れ、フィステル(膿の出口)ができることもあります。また、歯の神経とは直接関係ありませんが、「上顎洞炎(じょうがくどうえん)」も鑑別診断の一つとして考慮されます。上の奥歯の根は上顎洞と近接しているため、上顎洞に炎症があると、横になった際に洞内の膿などが移動し、歯の神経を圧迫して痛みとして感じられることがあります。この場合は、鼻の症状(鼻づまり、色のついた鼻水など)や顔面の痛みを伴うことが多いです。歯科医師は、これらの可能性を念頭に置きながら、問診(痛みの性質、始まった時期、持続時間など)、視診(歯の状態、歯茎の腫れなど)、打診(歯を軽く叩いた時の反応)、温度診(冷たいものや熱いものへの反応)、レントゲン検査などを行い、総合的に診断を下します。レントゲン検査では、虫歯の深さ、根尖部の状態、上顎洞の様子などを確認することができます。
横になると歯が痛いのは神経のサイン?歯科医に聞く